(高三のくせに)
自分にしっかりとしがみつく恋人を見て刺々森は思った。恋人である絶山は強く刺々森を抱きしめて、しゃくりあげて泣いていた。
いつもそうだった。刺々森が浮気したり、それに近いことをすると何処かへ呼び出されて殴られるか犯されて、しがみついて泣いていた。まるで子どものように。刺々森はその度それを受け入れて、ため息をついていた。
(もう十八のくせに)
なだめるように刺々森は絶山の黒髪を撫でた。昨日風呂に入ったばかりなのか、シャンプーの香りがした。髪がさらさらとしていて気持ちよかった。
絶山は泣きやまない。
(愛なんて知らないくせに)
屋上には静かな風が吹いていた。遥か下で生徒達の声が聞こえた。今日は体育なのだろうか。何度も笛の音が響く。
刺々森は絶山の冷たい涙を肌に直に感じてぎくりと体を強張らせた。しかしすぐに冷静を取り戻す。
それからなんとなく思った。
(ああ、だからか。だから泣いてるのか)
愛を知らないからこそ恐くて、泣いているのか。裏切られるのが、また捨てられるのが恐くて泣いているのか。
それは刺々森だって同じだった。
(恐いよ、俺だって。泣きたいよ、俺だって。でも泣けない。だってお前が泣いているから)
空は灰色に濁っていた。青く澄んだ空等少しも見えやしない。それはそれで悲しいもんだな、と刺々森は思った。
絶山はしゃくりあげながら刺々森に顔を見せないようにして抱きしめる角度を変えた。首元が冷たい。
ぽた、ぽた。冷たい雫が落ちる。
それが鼻にあたって刺々森は空を見上げた。空から数秒雫が垂れて、後大雨と化した。
雨はすぐに刺々森と絶山を濡らした。絶山は気付いていないのか気にしていないのか刺々森を抱きしめたままだった。またため息をついて絶山を抱き締め返す。絶山のしゃくり声は雨に掻き消されて聞こえなかった。
(泣き虫)
静かに絶山の額に口づけた。そして絶山に顔をあげさせて口にキスをする。雨のおかげで泣いているのかわからない顔をしていた。
「なんでだよ」
絶山が言った。刺々森はふいと顔を反らして絶山の胸の中に顔を埋める。
「なんで、なんで」
空は暗かった。なにもない灰色の空は、異常に空しかった。
雫が二人を濡らす。
それだけでよかったのに。
「なんでお前まで泣くんだよ、刺々森」
end
泣くなんて卑怯。
君が泣くなんて卑怯。
本当に泣きたいのはこっちなのに。
アトガキ
刺絶に近い絶刺。うちの刺々森は浮気魔です。絶山はその度泣きます。
もうへたれ確定だね。